とある神官の話
アガレスは入口に立ち、ノックする。しかし返答はない。やや溜息をつき、入口から離れる。不在ではないのか?
こんな辺鄙なところに住んでるだなんて、変わり者ではないのか。
その予想は、やや当たることとなった。
「またか。おい、起きろ」
家のすぐ近く、木の下で本を広げたまま目を閉じる、美貌の男。しかし残念なのは見た目を気にしないらしく、しわしわのワイシャツと、どこかに引っ掛けたらしいズボンには穴。読んでいた本のタイトルは『海の生き物図鑑』。山で海の本か、とアガレスが苦笑する。
深緑の髪の一部が跳ねていた。
「なんだ。アガレスか」
「なんだとはなんだ」
「あれか。聖都からの差し金か?」
「いや、何か来たのか?」
否定をした男は「ん?」と私と目があう。そして「アガレス」
あの時のアガレスの表情は常に冷静な彼のイメージをやや変えることとなる。
「お前の息子にしては似てないな?」
「こんなでかい息子がいてたまるか。もしいたらお前には隠せぬだろう阿呆」
そして。
私が初めて、セラヴォルグ・フィンデルと会った瞬間でもある。
その人を、アガレス・リッヒィンデルが友人とは別に尊敬しているようだ、と気づいたのは少したってからだ。確かに見事だった。アガレスといいセラヴォルグといい、二人で組めば無敵にも思えた。羨ましい、と思う自分がいて、私は必死になった。追いつきたくて。
それを知られて、いたたまれなくなるのも―――――若かったからか?