とある神官の話



 いいかい。私は"本物"が欲しいのだよ。何故殺すかだなんてね、愚問さ。私は殺してない。それは進歩のためなのだ。私は"本物"になりたい。君は怖いかい?ああそうだろうね。そう。――――誰だって死は怖い。




「それって―――」

「ええ。ミノアの件であった、魂を喚び定着させるというようなものを、ウェンドロウはしたのではないかと考えています」




 薄暗い地下通路は入り組んでいた。途中通路が分かれていたり塞がっていたりし、かつ慎重に進んでいく中、ハイネンが静かに話していく。
 ウェンドロウは死んだ。だが、聖都で保護された子供に刻まれていた術は、彼のもの。死んだはずのウェンドロウの術が表に現れるのはありえないのだ。ウェンドロウは記録をとっても、己の術の仕方を記録として残していない――――いや、あったとしても、並大抵では扱えない。
 しかも、だ「確かに」




「全て、破壊したはずです」

「ええ。シエナのいう通り、セラは全てを破壊した。跡形もなく、ね」




 そう。
 父は死ぬ間際まで力を奮った。そして、破壊し尽くした。
 後に聞いたが、その場所は破壊しつくされたが、徐々に自然を取り戻しているという。もう二度と足を踏み入れることはないだろうが。

 無意識に震えた声に、ゼノンが目敏く気づいたようで、目を合わせる。私は気まずくて視線を向けない。



「だがよ、ミノアの件では"器"があった。しかもそんなに保つものじゃない一時的なものだぞ?誰かにウェンドロウの魂を喚ばせたとしても、長くはもたない」



 魂を定着させたのは人形だった。定着できるとはいえ、長くはもたないのだ。
 ええ、とハイネンは同意する。



「生身の人の中で己に最も近い者を選び、乗っとった、というのは?」

「相変わらず鋭いですね、ゼノンは」



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