とある神官の話



 生身の人を?
 そんなことが出来るのだろうか。真面目な顔をしたゼノンをうっかり見てしまい、目があう。にやにや。どついてやろうかと本気で思うが、我慢「あれだけ」




「人を集めていたなら、魂や精神自体を破壊して、肉体を生かしておけば」

「――――それってつまり、まるっきり他人になっちまうってことだよな」




 もともとの姿から、他人に己の魂を定着し、のっとる。だが一つの肉体に、破壊されたとはいえその人の魂や精神が残っていることとなる。つまり、一つの肉体に二人が共存する。
 乗りうつるためには、やはりもとからある魂を破壊しなければならない。

 肉体と、魂。
 ウェンドロウではない、とも言い切れなくなった。あの男が生きている―――?

 地下通路の足元が、土と石から人の手で作られたものに変わる。その時だった。悪寒。それはただの気のせいではなかった。振り返った私に無数の手。
 前からは「な、んだよこれ!」というラッセルの声と「やはりこれは!」という声と怒声。




「っシエナ」




 腕。腕に飲み込まれて、そして―――――――。






  * * *




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