とある神官の話
明るい、と思った。閉じられた瞼であってもそれはわかった。
長い夢を見ているような名残。呼吸がしやすく、息を吐く。目を開けなくては。だが、僅かに温い。しかし寒さのほうが勝ったためにゆっくりと目を開ける「シエナさん」
こちらを見ているのは、銀色。整った顔に、やや心配げな目が向けられている。周囲には防御術がかけられているのがわかった。
頭痛。体を一気に起こそうとしたのがわるかった。ゼノンが「ゆっくり」と背中に手を挙げ添えて、私を起こす。
「なにが……」
「地下通路で襲撃され、かつあの触手のようなものに飲み込まれたようです」
「でもここは」
「ええ。建物内です。最初に出たところから少し、移動しました」
そこで気がつく。
ゼノンは、負傷していた。動きやすく戦闘に適した服装だとはいえ、意識のない私と、あの無数の手のような触手と戦いながら移動したのだろう。
怪我は、と聞けば首をふる。既に治しましたと。
手の触手はある程度切り刻んだら、消えたという。まるで、連れて来るのを目的としたかのように。嵌められたのか、罠か。私とゼノンは一緒にいるが、他はどうなったのか。
建物内部、その一室は古い物置のような場所である。埃っぽい部屋だった。破壊されたままの棚には何もないが、床には本が散らばる。新しいのか古いのかわからない。
服の埃をはらい、ゼノンとともに立ち上がる。
「ここにくる際、人の気配がしなかったが……とにかく移動しましょう」
「ええ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと私が守りますから」