とある神官の話



 そういう問題じゃない。言ってやりたかったが、しかたない。事実、私一人よりも断然心強いし頼りになるのは間違いない。たとえそれが「スリル満点のデートだと思えばいいんですよ」という、ストーカー予備軍、変態変人だとしても。

 心強いのは、間違いないのだ。
 それに――――彼は私の緊張感を少しでもほぐしたのだろう。

 扉らしい扉は、実はいうと存在していない。森を出たときに見えた、破壊されていた場にあたるのかも知れない。
 ゼノンが部屋の外に出る。窓がない廊下は異様に感じる。地下でしょうか?と小声で話せば、わからないと首をふる。

 冷たい空気を感じながら、ゼノンと逸れないように足を進めれば階段にぶつかる。地下なのか、地上なのか。ゼノンは剣を抜いたまま、ゆっくりと上がっていく。
 

 ようやく、外。
 外はまだ雪があるというのに、この建物の近くには姿がない。



「なっ」



 轟音。それは爆ぜるような音を響かせ、揺らす。ゼノンが私を引き寄せ警戒。それは近くから聞こえた。
 ハイネン達だろうか?
 警戒しつつ進むが、あまり意味がなかったようである。
 部屋から出てきた影に、一線。ゼノンが術を乗せて斬ったのだ、と確認する前に腕を掴まれ、走る。影は前に見た、人の形をした影である。
 どろりと床に広がったそれは、泡立ち、再生しようとする。それを焼き払う術をかけながら、前へ、前へ――――。




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