とある神官の話
* * *
傷だらけだった。
人はそれを、穢らわしいと言う。
何故お前が生きている?危険性があるものが生きて、優秀な者が死んだ。何故お前が生きて野放しにされているのか。そう言われたとき、私は確かにそうだ、と思った。父は私を助けた。傷だらけでも、汚くても、危険性があると知っていても。何故。いっそのこと死んでしまえばよかったと思ったことは、何度もあった。数え切れないくらい、あった。
抱きしめて。愛して。大切にして。優しい顔をして裏切って、傷つくのに疲れる。ああ本当に、疲れる。なら「苦しいだろう?」
「そう。世の中は苦しいことばかりだ。人間はとくに、短い命だから、研究者にとっては足りないね。足りないのだ。"本物"が欲しいし、肉体も欲しい」
浮上。歪む視界のまま、何がどうなったかと思い出そうとする。名前は何だったか。名前、名前。私は誰だっけ。
視界に入ったのは、青。若いのか年上なのかわからない。ただ、気味が悪い笑みを浮かべ、言葉を発していない私の思考を代弁する。
シエナ・フィンデル。ああそうだよ。シエナ。そうだ。私の名前はシエナ・フィンデル。"あの人"の娘。
一気に現実味が増してきた。
「君の父は厄介だったね。本当に厄介なことをしたものだ。悲しいかな。君に刻んだ模様は使い物にならない。解読するにも時間がかかりすぎる。私には時間がない」
「っ―――――」
背中。素肌が空気に触れている。だが、そのほかはちゃんと衣服を纏っている。背中だけ切られ、開かれているようだ。見ず知らずの者に、晒されている。恐怖。よじったところでどうにも出来ない。
冷たい指先が、背中に刻まれた模様になぞる。肩が震えた。
「……邪魔者どもめ」