とある神官の話



 不気味に笑った男が消えた。



 ―――ゼノンは無事だろうか。

 咄嗟に放った術は、簡単なものでしかない。彼ならば大丈夫だと思った。別に他人で、いや、百歩譲って知り合いだとして、馬鹿みたいに首を突っ込んで。
 馬鹿だ。
 彼はどういうつもりなのか、私に付き纏うように姿を見せる。そしてたちの悪いナンパのようにあれこれはなしかけてきた。好き?何を馬鹿なことを。ありえない。"エリート"がこんな冴えない女を好きになるだなんて、私は今でも信じられない。

 なのに。なのに私ときたら、なんだ。無理なら無理だとはっきり言えばいいのに、それをしない。だからゼノンのファンクラブの女性らには目をつけられるのだ。
 ストーカー予備軍と、ノーリッシュブルグではデートし、かつネックレスまで貰ってしまった。
 私は、何を返せる?



「馬鹿みたい」



 首からは、ノーリッシュブルグで貰った"雪の思い出"が下がる。貰ったから、身につけている。ゼノンから貰ったから?まさか。そんなんじゃない。
 私は、駄目だ。
 多くの犠牲者。成功せず、死んだ子供。私は"本物"だった。ルゼウスがなりたかった、"本物"。

 このままじゃ、いけない。

 体は重い。手足を鎖に繋がれているが――――出来ないわけはない。集中し、爆ぜるように飛んだ鎖部分。足首や手首に残っても、後でいい。


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