とある神官の話
轟音。それはすぐ近くから発せられたように聞こえたが、それよりも――――一人の人がそこにいた。
短い茶髪に、性別不詳な顔立ち。少々言うなら男性にしては、やや華奢だろう。
「ルゼウス」
「お前は死んだと思っていた。お前がいなくなってから俺は"本物"になった。凄いだろ?やっと、お前から"本物"を取り返した」
人工的に生み出した剣。浮遊するナイフ――――ルゼウスは"能力持ち"であったが、こんな感じだっただろうか。昔のルゼウスしかしらない私はもちろん、当時から今まで、ルゼウスに何があったかは知らない。
私は、数メートル先に立つルゼウスに背筋かざわつくのがわかった。同じく背中や体に刻まれているだろう。彼女はいつから、"女"を捨てたのか「シエナ」
「お前はわからないだろうな。"本物"のお前には。そして救われたお前には!」
ルゼウスが腕を振るう。浮遊するナイフか停止、こちらに向かって放たれる。早くて回避を諦め、防御術を展開。弾く。
ルゼウスか走る。刃を抜く前に強い蹴り。庇い切れず吹き飛ばされる。
呼吸が出来ないまま床に転がったが、防御術がかけられているため衝撃は少ない。ゼノンがかけた術であろう。直ぐに膝をつき、前をみる。が、「いない……?」
左右に目を走らせて、「はっ!」と短い音。上だ。
避けられず、背中に衝撃。息が出来ず、鈍い音。首筋に冷たく鋭い何か「シエナ」
「お前が話した"外"は、確かにその通りだった。いろんなものに溢れてて、俺には眩し過ぎた。私は逃げるという選択肢もあったのだろう。俺は出来なかった。何故?俺と、"同じ"子供がいたからだ。いや、違う。俺は、何処にだって行けない。そしてお前を壊して、勝ち取った場所を、俺は手放せない」
「待っ――――」
赤黒い術式が浮かび上がる。