とある神官の話
古い部屋だ。とはいうものの使われていたようで、薄暗い部屋はやや乱雑だった。古めかしい本棚に、無理矢理詰め込んだような本や紙の束。
入口にはランジットが立ち、他は室内を調べていく「なあ」
「いい加減、教えてくれないか」
「少し待ちなさい」
私は机に置かれている本や、紙の束をめくり目を通す。
そう。すこし前―――――。
またもや人形と戦いながら、シエナ、それからゼノンの行方を探し、そして人体実験による被害を見た。
怒り狂うアゼル・クロフォードを再び転移術で聖都へ向かわせ、今にいたるのだが。
ここに立ち入った男と戦闘になったのは少し前、アゼルを戻らせる前なのだが、"違和感"が核心に固まりつつあった。あれは、恐らく。
紙の束は、たんなるメモのように見える。だが、わかる者にはわかる。ご丁寧に僅かな術がかけられ「のわっ」燃え上がるため残らない。
「ハインツ・サンダリオ。"人形師"だったらしいですが、随分昔に闇術に手をだしたとかで指名手配と行方不明でした」
「ハインツ?」
「まあいろいろと名前を変えていたらしいですがね。ハインツ・サンダリオが本名で、まあ、ちょっと記憶がありまして」
それはアガレスから聞いたものなのだが。
詳しいことは資料自体が消えてしまったため、私にもわからない。ただ、ハインツはウェンドロウに近づいたまでは知っている。それからそう、逆に取り込まれたと考えられたのだ。
精神を破壊され、ハインツ・サンダリオという個人の魂が封印されるように、ウェンドロウは彼を乗っとった。―――でなかったら、ウェンドロウが編み出した術をハインツが使えるわけがない。
セラヴォルグはウェンドロウを殺した。だが、彼は己の魂をハインツに移し替えたのだ。"魂喚び"と同じような方法で「本来」
「一つの肉体に一つの魂が限度だと言われています。本来の魂が拒絶するからと」
「だからウェンドロウは、予め、予備としての肉体を用意したと?」
「"真の魔術師"を得る手っ取り早い方法としては、"魔術師"の能力持ちを探し、選別し、自分を入れ替えたほうが早い。可能性が高い子供が多く犠牲となったのはそこでしょうね――――ですが、それでも年月はかかる」