とある神官の話


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「え、あれ」



 慌てて体を起こせば、近くにいた子供たちがきょとん、とすした。そこは部屋だった。さっきまでいた不気味な部屋ではなく、ちゃんとした、建物に見える。
 だだっ広い部屋ではあるが、絨毯がひかれ、古い棚や引き出しが置かれる。棚の中には子供むけの絵本や児童書が入り、部屋の隅には遊んでいたのか、おもちゃがちらかる。

 何処だ、ここは。
 私、意識飛ばしすぎではないか。




「お姉ちゃんも、連れて来てもらったの?」

「連れて来て……?」

「うん。ここね、みんな殺されたことになった子かね、来るの」

「殺されたことって――――」





 お水飲む?と、不安げな顔をしている子が聞いてくる。私は丁寧に断り、どういうことか必死に考える。
 私は、ルゼウスに押さえ付けられて、沈んだはず。てっきりあの男のもとに連れていかれるかと思ったのだが、見たところ、闇術特有の穢れが感じられない。ただ―――子供たちを見れば、やはりあの場所にいたのがわかる。

 傷だらけだった。




「"お兄ちゃん"がね、助けてくれたんだよ。変な人達が僕らに、怖いこと、するから」



 お兄ちゃん。
 そういえばここは窓がない。そういえば女の子が「地下なんだって!」と教えてくれる。
 近くに纏わり付くように子供が「名前は?」聞いいてみる。やがて私は理解できたような気がした「ルゼウス……?」

 そう!と笑った子に、私は愕然とした。聞けばこの子らはあの建物にもとはいて、一人ずつ減っていったり、または実験台として"処分"を受けたらしい。その処分を命じられたルゼウスが、密かに助けていたとしたら?
 私が知っているルゼウスは、"外"のことを聞きたがった子で。女の子なんかより、男の子がよかった。そう言ったりして。



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