とある神官の話



「ゼノンさんっ!」




 腕を前に庇いながらも切り刻まれるゼノンは後退、続けざまに生成した槍を放つ。が、私が前に出て静止、砕けて散る「やはり」



「あの男がかけた術が厄介、か。ならば」


 消えた!?と思ったら背中へ。振り向く前に拘束。シエナさん!という声が聞こえるがそれどころじゃない。
 地面から水平に術陣が発動され、動きを止められる。

 ぞわりぞわりと足元に浮かぶ無数の手は足を掴み、余ったものは何かを欲するように伸びてあちこちに触れる。その度に鳥肌が立ち、力が抜ける。だが体は立ったままで、男がにやりと笑う。



「っ―――――!!」



 男は、術陣へと手を伸ばして、沈みこむ。男の動きをうつす鏡のように私をも動かし、重なるように近寄る。指先から術陣に触れる。
 男の背後ではゼノンが再び刃を奮おうと地面を蹴り出す!だが嘲笑うように「黙っていろ!」と男が怒鳴れば、ゼノンが壁にたたき付けられ、鈍い音を立てた。

 声を出したくても出せない。あ、あああ。指先が重なる。ずぶりずぶりと沈み、もうすぐ肩、顔に近づこうとしていた。
 術式を通り抜けた私の指先は、あの男のもの。何故、何故。嫌だ、そんな。

 ウェンドロウは、力を求めた。"本物"を求めた。能力を欲した。力を持っていた私を本物とした彼の本当の目的は、能力の使える体が欲しかったのではないか―――。体があれば、寿命が長ければ長いほど、色んな可能性が続く。




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