とある神官の話



 もうすぐ、もうすぐだという囁きが聞こえる。私は、このまま?
 巻き込むようにハイネン達とここにきて、私は何をした?危険因子である私を守ったのは父なのに、私は、こんなところで死ぬのか?



「な、に……?」

「!」



 止まった。術陣の禍禍しい色が消え、変わりに男の腹部からは、刃の切尖が見える。私の目の前で、男は背後から、昔出会ったあの子が――――ルゼウスが貫いていた。
 壁に縫い付けられていたはずが、と恐らくこの男も思っていただろう。目を見開いた男が唇から鮮血を流す。




「終わりにしてやる。ハインツ、いや」

 ――――ウェンドロウ。



 今度は私が目を見開いた。ウェンドロウ、だなんて。先程まで意識がなく見えたルゼウスは刃を深く押し込めた。私は数歩後ろへ下がれば、「シエナさん!」とゼノンが後退するために私の腰を抱く。

 離して、と私は言った。だがゼノンは「危険だ!」と離さない。確かに危険だろう。たが――――ー



「あれは、もはやヒトではない!」




 腹部を貫かれた男―――ハインツというらしい。だが、ウェンドロウ?ハインツ?どういうことだ。
 混乱する私に、ルゼウスが剣を離し、今度は二本目の刃を持つ。一方のハインツは刃で貫かれたまま揺らめき「馬鹿な」と口から鮮血を垂らしながら、残ったほうの腕を見る。手の平には亀裂が走り、崩れていく「何故だ」



「何故、何故。私の計画はっ――――」



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