とある神官の話



 ハインツの絶叫。それは衝撃波のような風を生む。ゼノンか私を包みこむようにかばって回避。
 悲鳴と鮮血が舞い散る。ハインツは己を貫いていた刃を投げ捨て、さ迷うように歩く。何故。私は完璧だったはずなのだ!私は、本物の力を、肉体を!
 亡霊が、足元から手を伸ばす。死んだ者たちか。慟哭。

 両目から血を流したハインツが無残な姿を晒していた。あれが、残虐たる実験を繰り返した者の末路?
 ――――化け物だ。



「おのれセラヴォルグゥウゥウ!」



 視線。"何か"がハインツの体から伸びた。何だ。鮮血色の細いソレは、私の間近に迫っていく。
 まずい。ゼノンが舌打ちをし、防壁を生成しようとする。だがそれは、私へと到達することも、ゼノンが生成した防壁にあたることもなく、飛び出した影を貫いた。


 どうして。



「終わりだ」

「シエナ!ゼノン!」




 部屋に複数の声が聞こえたが、私は動けない。ああ、目の前で、貫かれたのはルゼウスで。鮮血を撒き散らしながらも「馬鹿、め」と笑う。その笑みは昔見た、あの時と変わらないように見えた。どうして。

 貴方は、私を憎んでいたのではないのか。

 貫かれたままで、嘲笑う顔は問答無用に突き進む。その度にハインツか悲鳴を上げる。まるで亡霊を見て怯えるように。

 ルゼウスの顔に、皹。それはいつだったかの人形事件と似ていた。肩か割れ、腕とともに落ちる。既にハインツは足が崩れ、地面に背を向け倒れた。
 たどり着いたハイネンらの中にアゼルはいない。どうやら聖都へ戻ったようである。




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