とある神官の話
「無事だったか」
「ええ。それより――――」
陶器が落ちて割れるような音。
ルゼウスの足が砕け、胴体が床へ落ちたらしい。何なんだとランジットか漏らす声と同時に私は緩んだゼノンの腕から逃れ、ルゼウスの元へ。
「あの子らを、頼む。それから―――」
「――――え」
床に倒れた衝撃で胴体、顔には大きな皹が出来ていた。触れたらそのまま崩れてしまいそうだった。しかし私が触れる前に、彼女は一言だけ、私へ遺した。
女を捨てたルゼウスは、ああ、私に微笑む。それは出会った頃のルゼウスの姿と重なった。私に刃を向けたあれから、ずいぶん久しぶりみた笑みだった。
「そんな」
頬から額へ、亀裂が割れる。高い音をあてて地面に崩れ散らばり、やがて灰となって消える。
――――――ごめんなさい。
シエナさん、とゼノンの声がやたら響いたように聞こえた。わかってる。わかっている。
我慢するように唇を噛み締め、ゼノンから差し出された手を取り立ち上がった。
呻くハインツ―――いや、ウェンドロウというべきか。私はどちらでももう、構うものか。痛むのは背中か、中身か。とにかく痛い。
「――――」
「お、おい!」
がきん、と頭を貫いたのはハイネンだ。呻いていたハインツの顔に皹が入り、見事に割れた。粉々になったそれはそのあたりに転がっている人形の残骸のようになっていた。
唖然とする私やゼノンたちをよそに、ハイネンは「気をつけなさい」と鋭くいった。ラッセルやランジットがやや距離をとりつつ警戒。"それ"は陽炎のように揺らめいて「っ」
目の前に見えていたハイネンやゼノンが消え、次に見えたときには"それ"が私を拘束するように纏わり付き、ハイネンらから距離をとっていた。