とある神官の話
陽炎から出たのは、老人の手や足。そして深い皺を持った顔。"ハインツ"だった面影はない。ならば本体というべきか。それは悍ましいもの。
苦痛からか解放された私を今度は、アガレスが抱える。続けて「終わらせてやろう」と片手を上げ、装飾された剣の先が劫火に呑まれるウェンドロウへ向けられる。
「―――――」
―――忘れてくれるな。
「えっ?」
多分、私にしか聞こえなかった。囁かれた言葉よりも劫火が、そして剣によって刺し貫かれた。貫かれたそれは言葉も無く床に突き刺さる音。
"浄化"されるように劫火は彼を焼き尽くす。
静寂。何事もなかったかのような静けさを破ったのは、アガレスだった。
「―――愚かな」
「己の欲や願望のために多くの犠牲を払ったところで、得られるものなど所詮かりそめだというのに」
「アガレス、貴方はっ」
「私は許すつもりはないのだ。ハイネン」
何をいっているのかわからない。ハイネンと、アガレスの間にのみ何かがあるのはわかる。だが――――。ハイネンかはっとした顔をし、己の背後へ振り返る。なだれ込むように入ってきたのは「動くな!」と、完全武装した神官らであった。
前方に並ぶそれらにも、アガレスはさほど興味がないように「すまなかった」と小さく口を開く。