とある神官の話
「セラが死んだ原因となった男を野放しにしていた私にも落ち度があった」
「貴方……」
「あれに娘がいることを知り、セラは死んだ。こんな身でもちゃんと確かめたかった――――気をつけろ。君は狙われている」
喧しい声と投降を促す声が重なり、ハイネンの表情が歪む。アガレスはどうするつもりなのか。わかるのは多分、私を傷つけないこと。確かではないが…。
狙われている?誰に。そもそも私が知る"殺人犯"であるアガレス・リッヒィンデルは、こんな穏やかな顔をする男なのか。神官や枢機卿を殺害した悪。私にはそんな風に感じられない。
何が、本当なのかなんて実はわからなかったりするんだよ。本当だと思っていたものが、実は嘘だったりする――――。
思わず掴んだ服に、アガレスの視線が僅かに下がる。
「父は真実とされているものが、本当に真実なのかわからないこともあると言ってました」
「……」
何故。正しいというなら正しいのではないか?偉い人がいう言葉は、正しいのではないか。父は困ったように笑い、確かにそうかも知れないという。たいていはそうだろうと。
だが、"もしかしたら"があるかもということを一つ、覚えておきなさいと言った。全てが正しいとは限らない。なら父さんは?と私は聞いた。そうだな、私にも変わらぬ真実はあると言った。今考えても恥ずかしいくらい、父は私に「私はシエナが大好きだ」という。
本当は、何処にある?
教えられたことは、本当―――?
危険因子である私のことが、裏であれこれ手を回されていたように、何かあるのか。
「本当は――――」
「投降する意志がないと見る!」
僅かに表情を変えたアガレスに、私はぐっと回された腕に息が詰まった。
発光。ハイネンが「貴方たち待ちなさい!」と止めようとしたが、拘束術や攻撃系の術が炸裂。アガレスは私をやや庇いつつ後退し、着地。軽く手を降れば武装神官が吹き飛ぶ。