とある神官の話



「ウェンドロウは私も予想外だった。セラヴォルグ・フィンデル―――君の父が倒したと思っていたからな」

「ええ」



 私が行方不明となってから、父は血眼になって探した。そして――――見つけた先の地獄を葬り去った。己の命を犠牲にして、私は助けられたのだ。それは当時教皇か悩むもとを生んだ事件だったともいえよう。
 エドゥアール二世は、結果的に私を"普通"に戻した。危険性は間違いなくあった私を閉じ込めたり、または殺したりすることはなく「後悔」



「していますか」

「後悔?」

「私を助けた結果として、"あの"セラヴォルグ・フィンデルが死んだことを」



 神官として腕利きなセラヴォルグ・フィンデルを失ったのは、指名手配されたアガレス・リッヒィンデル並のことであったのだ。アガレス、セラヴォルグ、ヨウカハイネンの三名は当時有名であったからだ。
 アガレスが指名手配されたならばと、対抗出来る人物とされていたのに――――彼は死んだ。それは期待されていたものとは違う結末であったし、失望感もあっただろう。

 書類を印をした教皇が顔をあげる。その目は怒っているというより「馬鹿だな」と言う、優しげなものだった。




「教皇という地位から見れば確かに、彼を失ったのは痛いのかも知れない。だが俺は後悔などしてない、いや、嘘だな。今でも思う。他にどうにか出来なかったのか。あいつが死ぬ他にも何かあったのではないかと」


 息を吐く。


「君はここにいる。セラヴォルグが救った君が――――無事でよかったと思っている」




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