とある神官の話




 私がうんうん考えている中、ばたん、と問答無用に開いた扉。誰かと振り返る。頬杖をついていた教皇は「おっ」と短く声を発し、それを見た。

 銀の髪を軽く束ね、陶磁器のような肌と赤い口唇。すらりとしているが、程よい体型の美丈夫――――というのが見た感じの感想である。が、騙されてはいけない。あちこちに出没して私を困らせるストーカー予備軍がそこにいた。

 どうして貴方が、ゼノン・エルドレイスがいるんだ!
 うっかりそう言いかけた私はぐっと堪える。一方の教皇は「よお」と気さくに声をかけた。




「何が"よう"なんですか。人がシエナさんを必死に探していたら、貴方の仕業だとわかりましたよ。どおりで見つからないわけです」

「あー、いいじゃねえか。俺だってもっとこう、身分やら仕事やら別にして話したいんだ」

「いつもほっぽらかしてるくせに」

「あの!」




 このままだと永遠に続きそうだ、と思った私は思い切って遮ってみた。予想通り「お?」やら「あ」やらという二人からの視線に挟まれてしまった。

 あ、やばい。

 ぶっちゃけると何も考えずに遮ってしまったため、無言。それを破ったのは「シエナさん!」ゼノンであった。すぐ隣まできて、危機迫るような顔をしている。
 私、何かやっちゃったか。




「変なこと言われませんでしたか?」

「あ、いや何も」

「おいゼノン。お前なあ、父親にむかってそれはないだろう」

「貴方だから心配なんですよ」




 は?
 教皇が放った言葉に私の機能が止まった。いや、待て。落ち着け私。

 聞き間違いかと思った。あれまさかそんな、そうだ聞き間違いに決まっている。
 固まる私をよそに「わざわざ探させて、最後の最後にたどり着くようにする人は父さんくらいです!」などと言っている――――って。



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