とある神官の話
「勘違いするな」
ようやく喋った、と思ったらカーテンを閉めて男もまたフードを取り去る。そこから現れたのは年齢不詳の顔。耳の形がやや変わっているからため、リムエルだとすぐにわかる。
―――リムエルの"隻腕の剣士"
当時そう呼ばれた男が、そこにいた。外套で服装はわからないが、あちこちに武器を仕込んでいるのだろう。それなりに経験をつんでいる護衛でさえ圧倒され、緊張していた。
「お前を殺さなかったのは、ただ利用価値があると判断しただけのこと。はっきりいってお前がうまく立ち回らなければ、死ぬだけだろうな」
「っ……それはお前の考えか?あるいは"あれ"の考えか」
「どちらだと思われる?――――ヒーセル枢機卿」
"隻腕の剣士"、ヴィーザル・イェルガンは嘲笑するように名を呼んだ。
聖都にいる枢機卿であろう人物が、死んだとされている男と対峙している。ヒーセル枢機卿は苦い顔をする。
それを――――ヴィーザルは冷たく見ていた。利用価値があるとはいえ、別に殺しても構わない状態でもある。どうせ、本当は"当時"殺す予定だったからだ。
今すぐにでも殺してやろうか。
そんな殺気を感じたのか、護衛が僅かに動いた。
「誰が本当を言い、誰が嘘つきか」
「何を―――」
協力をするふりをして、素をうまく隠している。"あれ"にとっては全てがただ面白いか、そうでないか。みんな"ふり"をしている。
ヴィーザルは殺気だつのをやめ、素を隠して、"お気に入り"の傍にいる奴を思い出す。―――絶対殺してやる。
「まあいい。お前はお前で動け」
訝しげなヒーセル枢機卿が姿を消した後、ほっと息を吐く。死んだとされている自分が生きているというのは、何とも奇妙な感じだ。
生きていて欲しかった人物が死に。
死ぬべき人物が生きていた。
ぎり、と奥歯を噛み締める。