とある神官の話
ゼノンの頭上に疑問符が浮かんだ。それに私は「あーもしかして」と予想する。
バルニエルの街にある神官の建物は屋内鍛練場もある。
アーレンス・ロッシュはいるのだろう。だが、レオドーラは「魔王降臨」と言った。つまり――――"あれ"か。
「とりあえず中に行きましょう。シエナ、彼の怒りを鎮めるには貴女にかかっていますねー。まあ大丈夫でしょう。娘に弱いでしょうし」
「ハイネンさん、楽しんでいませんか」
問答無用にぐんぐんと進むハイネンと、「オレ、シラナイ」と顔を背けたレオドーラが二人揃って中に入っていく。ゼノンだけがきょとんとした顔で止まっていた。
厄介なことを押し付けたな――!
手ぶらな私と、自分の荷物を持ったままのゼノン。心なしか鍛練場で「ひぃぃぃ」という声がしたような……。
「私はちょっと鍛練場に行かなくてはならないんで―――」
「私も行きます」
言い切る前に言いやがったこの人。しかもどや顔。真面目な顔をすれば、勿論"イイ男"なのだろうが。
騙されるな。騙されるな。
平常心、と私は己に言い聞かせて「じゃあ行きますか」と、嫌な予感のまま私は歩きはじめる。
建物の中へ入り、屋内鍛練場へ向かう。屋内鍛練場といっても、そんなに大きくはない。高位神官アーレンス・ロッシュが「外でやれ外で」云々言ったとかなんとか聞いたが、真実はどうかわからない。