とある神官の話





 ゼノンの頭上に疑問符が浮かんだ。それに私は「あーもしかして」と予想する。

 バルニエルの街にある神官の建物は屋内鍛練場もある。
 アーレンス・ロッシュはいるのだろう。だが、レオドーラは「魔王降臨」と言った。つまり――――"あれ"か。




「とりあえず中に行きましょう。シエナ、彼の怒りを鎮めるには貴女にかかっていますねー。まあ大丈夫でしょう。娘に弱いでしょうし」

「ハイネンさん、楽しんでいませんか」




 問答無用にぐんぐんと進むハイネンと、「オレ、シラナイ」と顔を背けたレオドーラが二人揃って中に入っていく。ゼノンだけがきょとんとした顔で止まっていた。

 厄介なことを押し付けたな――!

 手ぶらな私と、自分の荷物を持ったままのゼノン。心なしか鍛練場で「ひぃぃぃ」という声がしたような……。




「私はちょっと鍛練場に行かなくてはならないんで―――」

「私も行きます」




 言い切る前に言いやがったこの人。しかもどや顔。真面目な顔をすれば、勿論"イイ男"なのだろうが。

 騙されるな。騙されるな。
 平常心、と私は己に言い聞かせて「じゃあ行きますか」と、嫌な予感のまま私は歩きはじめる。
 建物の中へ入り、屋内鍛練場へ向かう。屋内鍛練場といっても、そんなに大きくはない。高位神官アーレンス・ロッシュが「外でやれ外で」云々言ったとかなんとか聞いたが、真実はどうかわからない。



< 477 / 796 >

この作品をシェア

pagetop