とある神官の話
すれ違うリムエルの神官の中で、見知った姿を見つけた「クロイツ…?」
扉の前でうろうろしているクロイツの肩が跳ねる。こちらを見た男―――クロイツ・ロッシュが目を見開き、「救いの女神が来た!」と言った。
「ちょ、ちょっと」
「シエナ!とにかく君が何とかしてくれ!」
ずいずい前に引っ張り出され、扉が開かれる!
私のやや後ろでゼノンが身構えたが、やがて「何です、これ……」と戦闘体勢を解除。そんなの私も言いたい。
そこには――――森が出来ていた。
勿論バルニエルとはいえ建物の中まで森なわけがない。そうして中央あたりに一人の男がいた。深緑の髪に、耳の形がやや変わっている男と、床に転がる神官(多分新人)が何人か気絶しているのがわかる。新人神官はきっちり動きやすい戦闘用らしい衣であるが、残念。可愛らしい花が体に咲いている「うわぁ……」
久しぶりに見た。
ちらりと背後を見ると、「私じゃ無理だろ?」といいたげなクロイツがいる。
「全くどいつもこいつも血の気だけは多いな」
そんな声に、私はぐっと覚悟を決めた。ゼノンがこちらを向いたが「大丈夫」と言い、私は口を開く。
「―――アーレンスさん!」
「……、シエナ?」
気絶した神官から目をこちらに向けたのは、リムエルの神官だ。左目を眼帯で覆い、残る右目がこちらを見て、眼光を和らげる。
「いつ着いた?」
「たったさっき。ハイネンさん達が先に行ってます」
「ああ――――クロイツ」
「……はい」
「新人が起きたら今日は休めと言っておけ」
やっぱり私か、うなだれるクロイツに苦笑しつつ、変わりにアーレンスが歩きはじめた。屋内鍛練場に現れた森が「"戻れ"」というと消えていく。
ふっとアーレンスの顔がゼノンに向けられると、先にゼノンが名乗る。それにやや詰まったが、アーレンスが口を開いた。
「バルニエルの高位神官、アーレンス・ロッシュだ。ようこそ、エルドレイス神官」
互いに握手を交わした後、では行くかとアーレンスは進む。それに私たちもついていくが、鍛練場に残ったクロイツを思うと後で会いに行こうと思う。
ゼノンのためにいうが、クロイツはアーレンス・ロッシュの息子である。ちなみに二番目である。図書室にいることが多いが、長男であるファーラントはアーレンスとそっくりなのである。
私がアーレンスの世話になるようになってからは、クロイツもファーラントも兄のような存在であったのだ「シエナ」
「―――大変だったようだな
「……ええ」
高位神官、アーレンス・ロッシュの名前が下げられた部屋の扉を開ける。
* * *