とある神官の話



 バルニエルには多くリムエルが住むという理由もあるのだろう。神官もまたリムエルが多い気がする。久しぶりに来たバルニエルが冬だというのが残念だった。春ならば豊かな自然が出迎えてくれるというのに。
 今は真っ白だ。




「私は暫くバルニエルにいたことがあるんです。さっきあったクロイツや、その兄ファーラントはその、お兄さんっていう感じですね」

「成る程」





 作戦を練る、と言ってハイネンとアーレンスが部屋にいる頃――――それぞれ自由な時間となった。

 レオドーラは何故かアーレンスから仕事を命じられ、「チクショウ!」などと言い残して消えた。そのためゼノンと私は自由なのだが……。
 ゼノンはバルニエルが初めてだというため、私は少し悩んだ。だがそれよりも先に「散歩に出ませんか」と切り出したのである。勿論、「シエナさんがよければ案内なんかしてくれませんか」といってきたのだ。

 それに、何故かノーリッシュブルグのことを思い出した。
 ……別になんでもない。





「春のバルニエルのほうが花とか綺麗なんですけど、今は冬ですから」

「確かにこれだけ豊かな自然だと、花も綺麗に咲くでしょうね」





 ジャナヤの件があってから、何となく、私はいたたまれない。あんな過去を知られ、後ろめたい気がするのだ。あんな過去を知った周りは、私に気をつかう。
 あの後休みを貰って正解だった。
 興味津々に近寄るのも、また奇異の目も嫌だった。異質だと、化け物と言われているみたいで。

 家に閉じこもっていて、そんなときに彼は現れた「今年も」





「いいことがありそうです」

「えっ?」





 急に何を言い出すのか。
 子供達が横を駆け抜けていく。微かに甘い香りがした。イベントのあれだろうか。

 ゼノンはふふ、と微笑む。




「以前のシエナさんなら、"じゃさよなら"とあっさり別れても可笑しくなかったのに、今は散歩にまで……ふふふふ。進歩ですかね」





 にやにやにや。
 イケメンはニヤニヤしていても、無駄に様になるから原が立つ。前にそんなことをランジットに話したら、彼は深く頷いてくれた。さすがゼノンの相棒をしているだけのことがある。

 ―――じゃなくて。







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