とある神官の話
吐息が白くなり消えていく中、固まった私に「聞いてますか?」と言う。聞いている、聞いているが……。
頭が上手くまわらない。
「何もすぐどうの、とは思っていませんし、返事も今すぐ欲しいだなんて言いません」
「それは……」
「ちょっとあれです、焦ったんです。ライバル登場に、ね」
「は?」
急に茶目っ気に笑ったゼノンに、私はぽかんと見つめる。
行かないんですか?と言われ、私は慌ててついていく。土地勘がない彼の変わりに私がいるのだが……それよりも今ものすごい状況なのだ。あれこれバルニエルにあるものについて説明している余裕がない。
身につけている"雪の思い出"が、その存在を主張する。まるで――――ノーリッシュブルグで聞いたあの昔の話みたいだ、など思った私。
本当にもう!更に熱くなるではないか。それは言ったん置いておく。
ゼノンのいうライバルとは一体何の話しなのか。ライバル。何の?
悶々としている私をよそに、彼は何ともまあさらっとしている。そしてまた爆弾発言をした。
「貴方が好きだと言ってくれるまで、私はイイ男を目指し、かつ口説き倒します。なので―――覚悟して下さいね?」
微笑んだゼノンに私はくらりとした。
もちろん、いろんな意味で。
* * *
机にコトリ、と置かれたのはココアだ。しかもそれはミルク入りの甘いもの。それを置いたのはアーレンス・ロッシュであった。まだ仕事が残っているようで神官服のままだった。
私はというとふらふらゼノンと戻ってきて別れ、そうだ、と思い立ったようにアーレンスのもとにきたのだが。
「顔つきが変わったように見えるな」
「そう、ですか?」
「―――話は聞いている。流石にリリエフの件や、ジャナヤのことも」
個人部屋で、扉には"入るな"の札が下がっていた。それも多分、適当に作ったやつだと見ればわかる。そしてそれが絶大な効果を発揮している。
アーレンスが忙しいのは知っている。新人の鍛練に付き合っているような暇もないのは知っている。―――本来の高位神官、枢機卿はみんなそんな感じだからだ。
だから、そう。ゼノンがストーカー予備軍だとしても、ちゃんと仕事をしているのは知っている。
「あの」
「……そう気をつかうな。私は枢機卿ではないから、あまり意味がなかったかも知れない」
「そんなこと」
―――なかった。
ジャナヤの件でもやはり、問題は浮上した。まあ結果的に功績となった形ではあったが、私のことがある程度知られてしまったこともある。
私が言おうとしたことを遮り「随分と成長したようだ」と微笑んだ。
「初めて会ったのは、いつだったか」