とある神官の話
アーレンスは柔らかい表情のまま、私に菓子をすすめる。チョコレートやクッキーが皿の上に並ぶ。
アーレンスと初めて会ったのは、まだ父が生きていた頃だ。セラヴォルグがいきなり「よし、旅に出るぞ」云々言いはじめ、バルニエルに行ったのである。
セラヴォルグの友人であったアーレンス・ロッシュと会ったのは、その時だ。
――――アーレンス・ロッシュという。こっちはファーラント、こっちはクロイツだ。クロイツとは歳が近いから話も合うだろう。遊んでおいで。
セラヴォルグに比べたら、見た目怖い人というのが第一印象である。だが、すぐにそれは違うことを知ったのだ。
長男ファーラントは、今はゼノンと同じくらいの歳だし、クロイツと私は歳が近かった「あの時」
「私は何時間も娘自慢を受けた」
「知ってます。モージおじさん達がいつも話しますし」
モージおじさん、バルニエルの神官だった人物だ。今でも神官をやっている人物で、ついさっきも会ったばかりである。
私の父は、そう、親しい人物には何故か毎回私を自慢する。あれをしたこれをした、などなど。当時でもそれが照れ臭かったが、今でもそうだ。父は突拍子もない人といってもいいかもしれない。
「聖都は、辛くないか」
「―――ちょっとだけ」
やはり、とでもいいたげなアーレンスが眉をひそめる。
「でも、私にも味方がいますから」
そう言った私に、「そうか」と頷く。そして大きな手の平で頭を撫でられると、ああ昔もよくされたなと思う。
再び何かアーレンスが言おうとしたとき、ノック。
"入るな"の札が下がっている状態で来るのは勇者か。バルニエルの神官達ならば知っている『アーレンス・ロッシュ高位神官をキレさせるな』はまだまだ知られていることであろうが……。
仕事ならばもういらん、と無視。だがそうもいかず、私が立ち上がる。
そこにはここの主にそっくりな顔がある。
「ファーラント兄さん?」
「お前…やはりここにいたのか。夕食はまだだろう?誘おうと思ってな」
「因みに私も一緒だ」
後ろからクロイツが姿を見せ、じゃあ行こうかなと頷く。アーレンスはというと「あの変人に誘われているから残念だが」と言葉通り、残念な顔をしていた。
気をつけてな、というアーレンスに私は懐かしさを抱えたまま頷く。
初めて出会ったとき、クロイツはそんなに大きくなかったっけ。自分より身長が高くなり、何だか置いていかれた気分だ「やっぱり」
アーレンスと同じ深緑の髪を持つクロイツがうんうんと頷いた。
「やっぱり父さんを鎮められるのはシエナだけだと今日つくづく実感したよ」
「何かあったのか?」
「新人の血の気に、祝!魔王降臨」
「クロイツに泣きつかれたの。どうにかしてくれって」
ああ、と納得したらしいファーラント。
クロイツ曰く、流石に可哀相だと止めようと思ったらしい。だが静かに魔王降臨―――投げ飛ばすは蹴りあげるは、花を咲かすはとなってきたため、兄にと最初は思ったらしい。
だが運よく(?)私がいたため、私に頼んだのだ。