とある神官の話
リムエルの神官は、どちらかと言えば肉体派な気がする。その高い身体能力故なのか、図書室にいることが多いクロイツでさえ弓を得意とし、いざとなるとその力を発揮する。
「"能力持ち"の相棒となるなら、それなりの武術は身につけたほうがいいからな。たまに付き合ってやるが…」
「兄さんも父さんそっくりだから、ちゃんとやらないと気絶しまくりだしね。ああ怖い」
賑やかな店に入り、向かいに兄弟が座る。メニューを見ればやはり迷うが、結局普通の定食を頼んだあと「で、シエナ」とクロイツが口を開いた。
「レオドーラとエルドレイス?とかいう男のどっちかと付き合ってるの?」
「ぶふっ」
喉が渇いたと水を飲んだ私は、うっかり吹き出す一歩前までいった。
いきなり何を言い出すんだ!
つい数時間に爆弾発言をされたばかりでコレか。暑い、といいながらもう一口水を飲む。
賑やかな店内だが、何故かファーラントが険しい顔をしている。
「三角関係?」
「違うし馬鹿クロイツ。というか何でそんな―――――まさかあのミイラ男」
「ミイラ?…ハイネンが話していたが」
あんのミイラ男!
どう話していたのか、と私は聞いた。
ふらふらしているハイネンが、「シエナも中々モテモテですねえ」などと言いはじめたらしく、それに兄弟そろって聞いたらしい。
一人は、バルニエルの神官で私と腐れ縁のレオドーラ・エーヴァルト。
もう一人は、聖都でファンクラブが存在し出世を囁かれているゼノン・エルドレイス。
兄弟はレオドーラのことを知っているが、後者はあまり知らない人物だろう。今そのどちらもいるという状態なのが悩ましい。別にどうもしていないし付き合ってもいないし!
すべて否定し、八つ当たりのように定食を平らげていく私。
「いいかシエナ。何かされたら俺に言え。"緑化"してやる」
「……、そういやファーラント兄さんさ、レオドーラも花だらけにしたことあるよね」
思春期、十代というのは何ともまあ色んな噂が囁かれたりする。レオドーラが私を好きだから近くにいるやら、付き合ってるやら聞いたららしいファーラントは、勘違いからレオドーラを花だらけにしたことがあるのだ。
バルニエルのアーレンス・ロッシュの息子、長男といったら父そっくりなため手出しされない。こてんぱんに返り討ちにあうからだ。
花やら蔦やらだらけにされたレオドーラはというと「可愛らしい花だらけにされても笑って立ち向かおうとしてた」のだ。ちゃんと誤解はとけたが、色んな意味でレオドーラは強いかもしれない。
アーレンスと同じことを言う長男の言葉に、やっぱり親子なのだなと思う。
「何もないよ。私だって何かされる前に吹っ飛ばすし」
「それでこそ我が妹だな」
ふっと表情を和らげたファーラントに、本当に兄がいたらこんな感じだろうなと思う。初めて会ったときから"兄さん"と呼んでいたが、それは今も変わらない。時折「お兄さんなの?」と聞かれることがあるが、その時はその時だ。
"魔術師"の能力持ちである私は、その辺の男には勝てる自信はちょっとある。
そう思うと、何というかあれだ。彼氏にするならある程度強い人じゃないとちょっとな、と思う。