とある神官の話
「ハイネン、お前は何処まで知っている?―――何を知っている?」
アーレンスがふっと眉を潜める。
聖都の裏で起こった問題を知っているのは数少ない。その中でもさらに深く知っている者も。
今となっては、詳しく、深く知るのはもしかすると私だけかも知れない。ミスラも知っているとはいえ、私やセラヴォルグ、アガレスという三人の過ごしてきた日々とは比べられないだろう。
ぐっと赤色を飲み干す。
「アガレスに、大切に思っていた女性がいました」
「それは知っている情報だが」
「それを殺したのが―――神官ら、枢機卿らだった。ただ殺されたんじゃない。彼が彼女の死が病などではないと気がつき、知った後が問題だった――――」
――――何故!何故だ!
――――アガレス、一体何が…
――――私が、私か……殺した?
秘密裏に行われていた"それ"。
脅威と見なしたものへの容赦ない排除。断罪。迫害され敵対したものとの戦い。私が拾われる以前からあったそれは、本当に"敵"だったのか――――否。
間違っていたのは、正しかったのは――――。
静かな怒りとなったアガレスが、それから後日。それが今から約二十年前の事件となるのだ。
「病で死んだと思っていた人物が、大切な人が、己ら神官や枢機卿らの手によって殺されたというのは――――あの事件を起こす理由になるでしょう」
「わからなくもない。だが、殺して何になる。殺したとしても、戻らないのはわかっていたはずだ」
「だとしても、あの事件かなければ"今"はないですよ」
押し黙ったアーレンスの空となった杯に酒をそそぐ。