とある神官の話





「あ、の」

「はい」

「い……今すぐじゃなくていいんですが、ちょっと相談したいことがあるんですけど」

「私に?」




 ゼノンの手からフォークが落ちる。からん、と皿にぶつかる音がした。そしてはっとした顔をして背筋を伸ばし「い、いつでもどうぞ!」と何故か意気込む。

 アガレス関係の話や神官に関わる話は、出来るならハイネンのほうが良いのかも知れない。けれど彼は暫く忙しいだろうし、その前に誰かに話しておきたかった。そして意見を聞きたかったのだ。
 それを何故ストーカー予備軍に話そうと思ったのか、私自身もわからない。ただ――――信頼はしているのだ。


 食事を終えてから、私の"相談"のためにブランシェ枢機卿の部屋へ向かう。彼はまだ不在だ。
 それで、と私が切り出すのは――――まず私の家が荒らされた時に見つけた、あの本の切れ端についてだ。<上の連中が何かしら動いているのは、恐らく間違いないだろう。奇妙な死が多すぎる>などとヴァンパイアの古い文字で書かれていたあれである。
 あまり説明が上手くない私の話を彼は黙って聞いていたが、アガレスの話には驚いているようだった。




「この話を聞いたのは私だけですか?」

「ええ。ハイネンさんに事件についてとか聞こうとは思っていたんですが」

「危険、と判断したのでしょう?確かに危険ですね……」




 本の切れ端みたいなのには、物騒なことが並んでいた。証拠隠滅。記録とは違う―――ああいう"記録"をまずいとするのは、まずいことをしている連中である。
 私の家に侵入し荒らしたのは、そんな記録の存在を知っていたからか?
 何かしらそんな記録が発見され、持ち出されたのかも知れない。

 聖都―――フィストラ聖国の闇の部分。一体誰が証拠隠滅を?一体誰があんな、惨たらしい行いをした?アガレス・リッヒィンデルは何故、神官や枢機卿を殺害した?疑問ばかりである。
 考え込む様子を見せていたが、やがて「父は」と口を開いた。


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