とある神官の話
「あの事件の後に教皇に選ばれ、腐った連中を片付けたそうです。もっとも、腐敗しきった連中の殆どはアガレスが殺害したそうですがね」
アガレスが枢機卿や神官を殺害した後は、枢機卿の数が減り、またはその多数の死者が出たということで混乱状態だった。それを纏めたのが現教皇エドゥアール二世なのは知っている。
あれこれ不正なでも片っ端から処罰し、取り締まった。
弾かれたものは"能力持ち"ならば能力自体を封じられたりもしたそうで――――あのラッセル・ファムランの似たようなものだった。彼は無罪が証明され、今は自由の身だが……。
現在、そんなこともあってか枢機卿の数は数年間を見ても一番少ない状態だ。
「でも、実際はそうじゃなかった」
「えっ」
ゼノンは確実ではありませんが、と断りを入れる。
「もし、アガレスが何らかのために復讐者となって神官らを殺し復讐を果たしたのなら、その後危険を承知でわざわざまたあちこちで姿を見せる必要はない」
ゼノンの予想は――――。
昔、アガレスには大切な女性がいた。だが何らかで彼女は死に、それを彼もまた受け入れた。だが、彼女の死に裏があることを知る。それに関わった者を殺害するため彼は復讐者となった。
そうして関わったと思われる枢機卿や神官らを殺害したが、そのあとまた何かに気づいた、あるいは新たに何かを知った―――。
そのために彼はまだ動いているのではないか?
アガレスは闇堕者となって事件が起こしたといわれるが、証拠はないのだ。ただ、闇堕者となったとするなら、そんな残虐な行為に納得が出来てしまう。
私は、あの事件の理由は不明だと知っているが、たいていの人は"闇堕者となったから"という答えを浮かばせるだろう。
彼が闇堕者ではなかったら、の場合だが。
ヒトは予測不能だ。何をするかわからない。優しい顔の裏で残虐さを発揮する者もいるのだ。