とある神官の話
「不正などだけではないから、調べていたのでしょうね」
「ならあれは、やっぱり父さんの字なのかな…」
「そこも気になりますね。もしシエナさんのお父さんなら―――自宅の侵入者は彼が調べていることを知っていたとも考えられますし、そうなると……」
そこで止まったゼノンは黙ってしまう。真剣に考え込む様子に、何だか申し訳なくなった。
今更後悔しても遅い。
やはりハイネンに聞くべきですね、と結論づけたハイネンに私も頷く。
時計を見ると、随分時間がたっていた。時間は大丈夫か聞けば「ああ…」と溜息。すみません、と言われて慌てて否定。むしろ私のせいで時間を貰ってしまったのだ。立ち上がった彼が「シエナさん」と真面目な顔をする。
「本当に、気をつけて下さい」
近い距離でそう言われ、私は頷くしかない。聖都で、宮殿内で何かあるとは思えないが―――そう思う私に、彼は「そうじゃなくて」と更に真剣さを帯びる。
な、なに…?
彼はそっと肩を掴んで「いいですか」と私に言い聞かせるようにいう。
「私はもう、貴女が――――」
ゼノンの表情に影。肩に置かれた手がやけに熱く感じた。どこか熱っぽいような、案じているような、そんな目だ。目を一度逸らしたが、再びちらりと見る。
目が、合った。
「傷つくのは、嫌ですから」
* * *