とある神官の話



「私もね、シエナみたいに悩んだ頃があったよ」

「えっ?」

「ふふ。聞くかい?」

「是非!」




 ちょっと待って、とお茶を用意した後、ブエナは向かいに座る。


 ―――ブエナがまだ神官だった頃。
 一人の年下の神官が、彼女に惚れた。しかしながら当時ブエナにはすでに恋人がいて、勿論告白してきた年下の神官を断った。
 だが、年下の神官はそれでも諦めず「いい男になります」宣言をし、強い神官となっていこうと努力した。そしてたびたびブエナに会いにきていた。




「そんな時だよ。恋人が浮気しているのを知ったのは」




 当時の恋人が浮気をしているのを見たブエナは、深く傷つく。ブエナには他にも言い寄る人がいた中で、その恋人を選んだのに……恋人は浮気をし、ブエナは雨の中子供みたいに泣いた。
 そんな時。
 あの年下の神官がたまたまブエナを見て、傘を放り投げて走ってきた。どっか行ってよ等いろいろとひどいことも言ったが、彼は何も言わず、泣きじゃくるブエナのそばにいた。ずっと、ずっと。




「もう誰も好きにならないと思ったよ。だけど、彼ならって思った」

「その人って……」

「その年下の神官が、私の旦那様になったのさ。人を守って死んでしまったけどね」



 結婚後、ブエナは神官を辞めた。
 後になってブエナには子供が授からないことを知り、ならばと夫が孤児院の子供達かいるじゃないかと微笑んだという。僕達に子供が授からなくても、僕とブエナの子供達はここにいるだろうと。

 何で泣きそうになってるの、と困った顔をした。


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