とある神官の話
枢機卿を任命されたばかりの彼にあてられた部屋は、まだ乱雑だった。無造作に枢機卿の上着を投げているのにはぎょっとしてしまう「すみませんねぇ」
「くそハ……じゃなくて、他の方々からの仕事が紛れたりなんかしててんやわんやなんですよ」
少し待って下さい。そういってあれこれ片付けているハイネンに、私も手伝うために立ち上がる。上着はちゃんと本来あるべき場所へ戻す。
晴れた日が多くなり、ハイネンが包帯ぐるぐる巻きミイラ男となりつつあるらしい。袖からみえる手は白で覆われていた。
天気がいいにも関わらず、日差しが入るためカーテンはしめられている。これも日の光を苦手とするからだろう。
ロマノフ局長にちょっと頼んで話しをつけてもらい、私はハイネンのもとに来ていた。勿論ブランシェ枢機卿にも話してあるため心配はない。
これから忙しいであろう中で申し訳ないが、早いほうがいいと思ったのだ。
詰まれた書類や本を端に寄せ、「聞きましょうか」とハイネンが微笑む。私も予め話そうと思ってきた通り、口にする。
自宅で見つけた紙、フォンエルズ枢機卿から聞いた話――――。
「……その紙、今持っていますか」
「ええ」
万が一誰かに見られないように術をかけて持ってきていた。その術を解いて、ハイネンへ渡す。
その間、ゼノンの予想を私が話すと「…さすがですね」とだけ。
「ゼノンの予想は、大体あっていますよ。彼は、復讐するためにあの事件が起こしたんです」
「復讐って」
フォンエルズ枢機卿が言っていたことを思い出す。ハイネンは頷く。
「アルエ・ネフティスという女性です」
アガレス・リッヒィンデルが大切に思っていた女性は、やや特殊な能力の持ち主だったという。
彼女はそれから体か弱く、長くは生きらろないとも囁かれていた。それでもアガレスは彼女のそばにいた――――だが、アルエは特殊な能力に体を蝕まれたこと、もともと体が弱かったこともあって亡くなってしまう。
勿論アガレスは悲しんだ。
「彼女の死因はその能力と病弱故とされました。アガレスも当時は納得したのです。ですが―――」
ハイネンの表情が変わった。
「彼女は、殺されたのですよ――――枢機卿や神官らにね」
驚く私をよそに、ハイネンは「覚悟はよろしいか?」と聞いてくる。私は、無意識に握りしめていた拳を見遣る。
答えは、決まっている。