とある神官の話




 ――――よくわからない。
 はっきりいって、武器や防具がきちっとしていれば何でもいい。衣服は着れればよし、という私はどうとも思わない。ただ、私服はたいてい変だと言われる。

 その辺で適当に買った、と返した私に「あー……そうなんだ」と。引っ込んだかと思えば、パンと牛乳を抱えて戻ってくる。



「で、どうするんです。あの人」




 拾ってしまったからには、拾い主が面倒をみるべきだ。今更捨てることは無理だ。目覚めて何処かいくあてがあるなら行けばいい。ただ、そう。孤独のまま死ぬのは勿体ないと私は思った。温かさを知らぬまま死ぬだなんて。
 同情、だろうか……。
 詳しくは聞いてこないアークに、暫く世話になる、とグラスを一気に飲み干す。それに「じゃあ稽古つけて下さいよ」とアークが笑った。



 それから男は、三日間目覚めなかった。その間アークの剣術練習に付き合ってやり、村の封術をかけなおしたりして過ごした。


 ちょうど、そう。男が目覚めてまるで亡霊のように外へ出てきたとき――――男は私を見ると思い切り地面を蹴って距離を縮めてきた。アークが「セラ!」と危険を知らせるが、私はあえて避けず受け止めた。男は今度は蹴り出すつもりだったらしいが、私はふっと腕をとりそのまま地面に投げる。やれやれ、予想はしていたが……。

 病み上がりで急に動いたため、男は呼吸を乱していた。何故だ、と唇が震える。何故だ!何故!
 死を望んでいたのだ。こうなるのが普通だろう。




「助けるのに理由は不要だ。それにお前はお前自身を放棄し、死のうとしていた――――それを私が拾ったまでのこと」

「何が、目的だ」

「何を勘違いしているのか知らないが、このあとはお前の自由だ。ただ」




 ただ。男は私の言葉を繰り返した。




「孤独だけが世界ではないというのを知らぬまま死ぬのは、勿体なかろう。我らはヒトの倍の寿命を持つのだから」


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