とある神官の話



 そうだ。命がヒトの倍長いならば、やれることはたくさんある。やりたいことも増える。比例して失うものもあるだろうが、私は――――願うなら、私が死ぬときは親しい者に看取られたいし、彼らに覚えていてほしい。
 生きていくなら、やはり温かさの中がいい。誰だって一人では生きていけない。


 近くでアークが無言のままこちらを見ていた。男もまた、倒れたままで私を見ている。やがて先に男が「それ」と口を開いた。



「貴様のその服……」

「言っても無駄ですよ。セラはセンス大絶滅してますから」




 アークの言葉に男は呆れた顔をし、やがて諦めたように息を吐く。変なやつに拾われた、といいながら。
 私はまたセンスか、と己の何処が大絶滅しているのか考える。別に着ることが出来ればいいではないか。

 上半身を起こした男を見て、思い出す。そういえば聞いていなかった。




「名前は何という?流石に名無しではなかろう」

「お前こそ。私の拾い主なのだから先に名乗れ」

「私か?私は――――セラヴォルグ・フィンデルだ。短くセラとも呼ばれる」




 あっちは"友人"のアレクシス、通称アークだ。そう紹介してやると、男は「そうか」と視線を戻す。
 お前は、と再び私は聞いた。男がこの先何を選んで、どう動くか私はわからない。だが、名前くらい覚えていたっていいだろう。知り合いくらいにはなれるはずだ。


 男は、しっかりとこう名乗った。




「――――アガレスだ」




  * * *



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