とある神官の話



 どういう意味だ、と言えばアガレスが笑ってみせた。本を片手に肩を揺らす。




「よかろう。なってやろうではないか」

「そんなすぐに決めていいのか」




 私が言ったことだが、と本を閉じたアガレスに言う。私は確かにアガレスを拾った。拾い主だ。だが、彼はモノではない。彼の人生がある。それは彼が選ぶものだ。

 彼は、何だと思っているのか。

 お前はお前だ。お前の主はお前でしかないのに。何となく、何となくだが―――彼は私を……。




「お前が私に生きろと言うなら、お前がそれを見届けろ」




 そう笑ったアガレスが―――――それから約一年後、"能力持ち"の神官となり私の前に姿を見せる。
 





  * * *




 ―――――???年。



 刃。冷たい刃がこちらに向かって来る。それを捻って回避しながら打ち落とす。回避出来ず刃を喰らった神官のうめき声が聞こえたが、ただ刺さっただけでは死なない。
 地面を蹴って、真横に迫った魔物を斬り殺す。そのまま刃を真後ろへ持ち帰りて突き刺す。悲鳴。




「フィンデル神官!」

「お前らは犬をやれ。お前は数名を引き連れて裏から行け」

「わかりました!」




 お気をつけて、と神官が身を翻す中、襲い掛かる魔物を切り倒す。
 ―――――最悪だ。
 上からの命令で、闇堕者の潜伏先へ襲撃作戦の参加をすることになったのはいい。だが……なんだこれは。

 最近になって増えた、こうした掃討戦。別に何か、ということはない。ただ、何となく引っ掛かる"何か"がある。それが何なのかわからない。
 その引っ掛かりを誰かに言うべきか、否か。そう考えると否だろう。

 上からの命は絶対。
 絶対、絶対か―――――。






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