とある神官の話
敵……本当の"何か"が、神官らの中に、同僚や上司にいるのではないか。
でなければ、おかしい。記録と"事実"の違いはどうなる。闇堕者の中に、神官らしき人物がいたのは何故。それを隠すようにしたのは誰だ。
私は、日々憂鬱としてきた。
聖都にはもうしばらく出向いていない。肥太った馬鹿な一部の連中に会いたくはなかった。
その間だ―――アークが結婚した。それは数年前になるが、嬉しい出来事であった。二人揃って会いに行て、二人揃って顔を赤らめながら報告していた。私はこんな奴でいいのかと聞いた。女性は微笑んだ。
その時アガレスが珍しく「幸せにならないと殴ってやる」などわけわからぬことをぼやいた。確かに殴ってやる、私もそれに同意し、アーク達はそれに頷いた。
子供が生まれたときだってそうだ。馬鹿見たいにうろうろして、泣きそうになっていて、アガレスに「貴様がしゃきっとしなくてどうする!」と言われていた。私からしてみれば同じくうろうろしていたお前も落ち着け、といいたかった。看護師が笑っていた。
幸せな姿だった。
子供がいて、私やアガレスに絡んできて……。
「フィンデル神官」
私はそれを無視した。神官は諦めたように、こちらに背を向けて戻っていく。
酷い雨だった。
全身を重く濡らし、引きずり込む。そんな馬鹿な。何度思っただろう。
アレクシス・ラーヴィアの妻フィルが何者かに拉致され、殺害されてからの彼は―――必死だった。残された子供を守りながら、アークは必死になっていた。私もアガレスも協力した。
フィルは無残な死体となって、そしてほかの被害者と一緒に見つかったのだが、彼らはただただ、墓の前で立ち尽くしていた。
――――セラ。
急に連絡があった。上の連中の一部は、闇だと。そして私が見つけた"術式"を狙うと。私は死ぬかも知れない。そうアークが話した。
研究していくうちに、発見した"術式"は危険なものだった。だが、それを危険だとして封じようとはせず、さらに研究を続けようといってきたのだと。
アークがそう連絡してきて、私か慌てて向かったときには――――彼は死体となっていた。
滞在していた村に、"大量の魔物"が出た。それをたった一人で食い止めるべく、強大な力を使った。己を代償にして。