とある神官の話



 大量の魔物。いきなり現れたとしても、疑問だ。だが上の連中は、それを適当な理由をつけて処理した。処理、処理だと?
 彼は研究の成果と、村を守ったことで評価された。

 ――――馬鹿な。
 アークは、殺されたのだ。

 大量の魔物がある日突然現れるなどありえない。馬鹿馬鹿しい。ありえないと言った。だが私のそれこそ"馬鹿馬鹿しい"と言われてしまった。
 しかも、だ。
 遺された子供たちもまた、行方不明となってしまった。見つからない。

 冷たい。ひどく。
 私よりもアークが先に死ぬのはわかっていた。私はヴァンパイアだから。普通のヒトであるアークは、私より早く死ぬ。アークは言った。セラ、私は貴方より先に死なますが、貴方は最期まで友人としていてくれと。
 当たり前だ、馬鹿者……。
 彼は孫なんかに囲まれて、安らかに眠るはずだったのに。




「私は、どうしたらいいのだ」




 私は立ち止まらない。立ち止まることは許されない。アークが死んだからといって、私の中に残る彼は生きている。覚えている限り、彼は生きている。忘れるものか。忘れてやらぬ。

 アークの子供たちは行方不明のまま、時は過ぎていく。

 私は続けて調べた。証拠を集め、味方を募ろうと思った。闇は深い。闇があるなら光だってある。私は信じている。


 アークの死後―――アガレスが"拾い物"を紹介してきた。拾い物。それは黒に近い青の髪に、まだ若いヴァンパイアだった。私は思わず「息子か」と聞けば、むすりとして「こんなでかい息子がいるか馬鹿」などと言った。
 ……まんざらでもないくせに。

 名前を、ヨウカハイネンという。ヨウカハイネン・シュトルハウゼン。長い名前だから省略してハイネン、と私やアガレスは呼んだ。
 私がアガレスを拾った時に比べると、ハイネンは実にいい子だった。いい子、まあ私やアガレスより若いとはいえ、すでに見た目は立派な青年である。後に彼も神官の道を進んだ。



 私も、アガレスも、ハイネンも。

 間違いなく互いを友として、確かにそこにいたのだ。



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