とある神官の話
「聞いているのか?アガレス・リッヒィンデル」
「聞いてる」
我に返って見たセラヴォルグは、やはり残念な服で。本気で私が選んでやろうかとも思う「いっておこう」
「神官といっても、クソハゲな畜生野郎もいる。闇は広がるばかりだ」
「闇?……お前はいつも抽象的でわからん」
「私だってわからない。だが―――色々と調べてはいるんだが」
「だからはっきり言え」
髪の毛が邪魔になったのか、何故か花の飾りがついたヘアゴムで髪を束ねる。花といっても何故顔があるんだ?しかも企み顔なのは何故やら、突っ込みたい要素は多々ある。
それどうした、と一応聞いておく。すると「子供から貰った」と言われた。
ふっと息を吐くセラもまた、コーヒーに口をつけた。マグカップを片手に目を伏せる。
「神官の中に、良からぬ影が見えるということだ」
影、か……。
とにかく気をつけろとセラは、あれから会うたびに言っていた。気をつけろ。わかっている。私はそう返した。
神官は魔物から民を守ることが多く、そして闇に堕ちた者を取り締まる。正義。陳腐だが、地方ではそんなイメージをもたれていた。それもそうだろう。魔物はぴんからきりまでいるし、闇堕者もまた然り。
ヒトなど簡単に死ぬ。長命種族を置いて。あいつは言う。悲しむことは悪いことではない。だが死者は死者だ。残された者は彼らが生きていたことを覚えて守るべきだと。忘れられたら、孤独であろうからと。
私は、一度死んだ。
そして、生まれ変わったのだ。あれが私を拾ったのが、運の尽きだろう。
この時私はただ、上の連中から命じられたことをするだけだと、私は思っていたのだ――――ー。
* * *