とある神官の話
会うたびに、彼女は言う。ねえアガレス、いくら丈夫だからって怪我ばかりしないで。彼女はそういう。私が来れば、色んな話を聞きたがった。ハイネンとは違って私は話すのがうまいほうではないが、彼女はいつも耳を傾けていた。
"能力持ち"の力を吸収、または力自体を受け付けない彼女。
闇堕者とやりあった中、彼女は私を庇った。馬鹿な、と思った。彼女は"能力持ち"の闇堕者の力を受けたのにも関わらず傷ひとつ無く、そのまま力を相手に返したのだから。
しかし、彼女は強くはなかった。体が弱いくせに私を庇い、しかも「これで死ぬならいいかも知れないわ」などと言ったのだ。
――――お前は、馬鹿だ。
彼女は若かった。なのに、彼女は何かを達成したような顔をして、私にはない何かを持っているような目をしていた。何故助けた。何故庇った。私は神官で、お前は一般人だというのに。
―――体が弱いのは、変わったその能力故ではないか。
例がないその能力に、興味を示したのは上の連中だった。下手したら研究対象にされてしまう。出来るだけの手を打ち、セラにも頼んだ。上の連中はしぶしぶながらも手元に彼女を奥のを諦めるかわりに、度々聖都から彼女の様子を見に来る。
実験しているようで、私は不快だった。
「それはお前だろう。アルエ」
「私はいいのよ」
「よくない」
「だって私は大抵病院だもの。いつも戦ってる貴方とは違うから、不安なの」
アルエは覗き込むのをやめ、背中を木に預けた。
「貴方はヴァンパイアよ。確かに強いわ。けど、私はいつだって怖い。セラやハイネン、貴方が死んじゃうんじゃないかって。私を置いて、先に死んじゃうんじゃないかって」
「それは無い……絶対に」
「絶対だなんてないわよ。何があるかわからないんだから」