とある神官の話



「アガレスが闇堕者とされて事件に理由付けされ、リシュターもまたただの生き延びた枢機卿となりましたが――――アガレス自体にあった背景を考えると、接し方などに慎重にもなります」

「私はその、<真実を探せ。断罪せよ>っていう言葉が気になります」

「えぇ。バルニエルでシエナが聞いた言葉も引っ掛かります。本人からのメッセージだともとれるし」




 それはまるで神官、枢機卿らの中に"敵"がいるとでもいうように。
 しかもその"敵"が――――いや、ここまでくると何ともいえない。それに単なる偶然かもしれない。だからハイネンはあまり信用ならないと感じてリシュターに慎重なのだろう。
 これは間違いなく、大問題だ。軽々しく扱えない問題。



 机に置かれている書類をハイネンは眺めながら「護衛はどうします?」と私に聞いてくる。
 私一人でも、といいかけて先に「出来れば誰かと一緒がいい」と言われてしまう。自宅に侵入者があったことを忘れてはならない。
 誰かに守られなくてはならないというのは、自分が無力だと思えてならないが、私が一人で何も出来ず何かに巻き込まれるほうが迷惑がかかる。なら、最初から少しでも、助けてもらったほうがいいだろう。

 真面目な雰囲気を、ハイネンは見事にぶち壊す。




「ゼノンでいいですよね」

「えっ」

「ランジットにも頼みましょう。その方が安全でしょうし。あ、二人っきりのほうがよかったですか」

「良くないです!」




 "事情"を知っている人のほうがいいに決まっている。ランジットもそうだし、ゼノンもまた、私の過去を知っても変わらずにいてくれている。

 にやにや顔のハイネンに、私は何だかなといっきに疲労を覚えた。

 絶対楽しんでいるよこの人…。

 私からすればこの問題も深刻なのだが、今は無視しておこう。
 重苦しいことも、考えて調べなくてはならないことも、全部。



  * * *



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