とある神官の話


「その包み、なんだろうな」




 ぽつりと漏らしたランジットの言葉は、私が抱えるそれに向けられていた。

 リシュター枢機卿長からの頼まれ事というのは、二人を驚かせるには十分だった。もちろん私だってびっくりだ。
 ストーカー予備軍と関わるようになってからというものの、関わる人の身分が上がりまくっている。高位神官、枢機卿、枢機卿長。そしてフィストラ聖国のトップである教皇。……あれ、殆どの人と私は会ってしまっている。

 何故リシュター枢機卿が私に頼んだのか理由はさっぱりなのだが、仕方ない。




「厳重に術がかけられているところを見ると、それなりのもの何でしょうが」

「何故私なのかさっぱりですし」




 こういうものはあまり持っていたくないのが本音である。
 危険だから、私に護衛をつけてもいいとリシュターはいったのかも知れない。危険なものでも何でも、"枢機卿長"からの預かり物というだけで気が重い。

 あと数分でヴァン・フルーレなのだが、このまま何事もなく聖都に帰れたらいいと願うばかりだ。
 車窓から見える光景が次々変わっていく。



「そういや、今回の大会議で完全に派閥が出来たが、新人らを獲得するのにあちこち動いているらしいぜ」

「ただでさえアガレスの件もありますから、余計でしょう」

「ゼノンさんはどうなんです」




 私の問いに、向かいに座るゼノンが軽く微笑んでみせる。




「どちらかと言えば私自身はブランシェ枢機卿側ですね。穏健派というか…」

「まあ、フォンエルズ枢機卿がいる時点で穏健派っていう文字が激しく似合わない気がしてならないがな」




 ついこの前初めて"あの"ミスラ・フォンエルズ枢機卿と会って話をしたが……。確かに激しい人だった。
 フォンエルズ枢機卿、そしてハイネンの二人は色々と最強な気がする。毒舌大魔神とミイラ男。そう感想をいえば二人は深く頷く。



 私の周りには、些か(というかかなり?)変わった人が多い。
 何故だなんて私が聞きたい。

 高位神官ともなれば派閥云々もあるだろうが、私みたいな普通の神官はあまりぴんとこない。縁も殆どない。私はというと今はブランシェ枢機卿の側で動いているので関係ないともいえないが……。

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