とある神官の話
椅子を引っ張りだしながら「適当に座って下さい」という言葉に頷く。しかしながらこの部屋は乱雑すぎてちょっと困る。
しかしそんな中で慣れた手つき(に見えた)で椅子を確保し、私にどうぞといったゼノンには呆れた。ランジットは端で腕組みをしながら立っているし、ゼノンはにこにこしている。私は諦めて座った。
「あの術式は、例え奪われた一つが集まっても解読不可能なんです」
「……どういうことです?」
「ヴァン・フルーレの神官が解読しようとしましたが不可能とされ、もともと何十年も前に聖都に送られ封じられたはずなんですよねぇ」
おかしいと思いませんか?
そう机を片付けながら話すエリオンに、確かになと思った。
術式や書物に関しては危険だとされたら聖都で厳重な管理下に置かれる。破壊されることもあるという。
それは勿論ちゃんと記録に残る。その記録では、今から数十年前に聖都に送られたことが記されているそうだ。
しかし何故今回の術式がその数十年前のものだとわかるのか。それには「簡単ですよ」とエリオンが微笑む。
「アークが研究していたものですから有名なんです」
「アークって…アレクシス・ラーヴィア?」
誰だそれ、というランジットと「確かヴァン・フルーレの…」というゼノンの呟き。
ご存知ですか、といわれ「少し」と。
アレクシス・ラーヴィアは今から数十年前に、ここヴァン・フルーレにいた神官である。かなり優秀な研究者であった。
彼の経歴はあまり良いものではないのだが……功績は今もなお残る。
ヴァン・フルーレの神官ならば知っているであろうアレクシス…通称アークか研究していたとされる"術式"に関して、「シュトルハウゼン枢機卿から言われてたんです」
「アークが関わったもの全てに目を光らせろと前々から言われていまして。それで大体彼が研究していたものは頭に入れるようにしていたんですよ」