とある神官の話
何十にも重ねられた防御術が揺らめく。"守護者"の能力持ち故になせるものであるが、"魔術師"ならばそれも可能である。もっとも"魔術師"といっても力の上下があるのだが。
実験室の後始末をし終えたエリオンが地下の部屋に戻ってきたころには、既に夕方だった。
先にシエナらには休んで貰っているが、私はまだあの部屋にいた。
「先輩は変わりましたね。何というか、捻くれた感じを通り越して一回転してるような」
「……それはけなしてるのか?褒めてるのか?」
「嫌だな。褒めてるんですよ」
乱雑な部屋で、新たな書物を机に詰みながら笑う。
「親しくなればわかりますが、それ以外は貴方をただのエリートだと、背後にいる影ばかりを見ていたでしょう?」
自分は、必死だったのだ。
あの人――――父は普段からあんな問題児だが、やるときはやる。名前じゃなくて父さんかパパと呼べと言い、お前はお前だといってのける。自由に生きればいいさと。
そんな父を知る者は擦り寄ってくる。迷惑極まりない話だ。だが、私を拾って息子という人へ、お前の息子はなどと言われないようにと思っていた。
私も必死だったのだ。
捻くれながらも、腐れ縁であるランジットやキースは友としてそばにいたなら、それでいい。
「うふふ」
「気色悪い笑い方をするな――――それで?何十にも重ねた防御術の理由はなんだ」
戦闘に出るわけでもないのに、何十にも防御術を重ねて身に纏う理由がない。簡単なものならば別に問題はない。
やはり襲撃された関連か?
ボロボロな書物を広げながら「危険だからですよ」と言った。
「先程話したアレクシスの話があったでしょう。彼は実に不幸な人生です―――」
結婚した後、妻が殺害されてしまう。後に自分も死に、子供はというと行方不明。何だか物語みたいな話しだ。
優秀だったから尚更、まるで英雄話のようだった。
しかし、だ。
アレクシス・ラーヴィアは、ただの神官であり、研究者だった。優秀だとはいえ、特別な生まれでも何でもない。