とある神官の話



 …――――聖都。



 苛立たしげに当てられた部屋に戻ると、机に置かれていた書類の山を腕で払いのける。崩れた山は床に広がった。
 続いて強く机を両手で叩けば、鈍い音が響く。無駄な行為は八つ当たりに近かったことに、情けないと溜息。

 ―――予想が的中した。

 ついさっき連絡が入ったそれに、私は何をどうしたら良いか必死に考えていた。





「何故フィンデル神官をヴァン・フルーレにやったのです。貴方の下にいる者を使わずに、何故」

「何故?おかしなことを聞きますね」

「わざわざ聖都からあの…アークの研究したものを持ち出させたんです。罪に問われてのを覚悟しておいでか」

「確かにものを運ばせましたよ。しかしその中身がそれだと証拠はあるのですか?まあ、確かに術式ではありましたが…。貴方は私が本当に嫌いなのですね。何が何でもこじつける」





 ―――やられた。
 いつもの柔和そうな笑みと、余裕。アンゼルム・リシュターに問いただしても、彼のほうが上手だ。すべて計画され、その上で彼女はヴァン・フルーレへ向かった。そしてあの、死んだとされていた隻腕の剣士まで動かした。
 やはり、リシュターは…。
 ミスラが動きヴィーザルの身柄を確保しているとはいえ、彼は聖都に来ることになる。リシュターか、他が彼を狙うかもしれない。だが何故ヴィーザルはヴァン・フルーレにいた?

 先程会話をしたリシュターを思うと胸糞悪い。今頃フォルネウスも頭を痛めていることだろう。




「…私一人に押し付け過ぎですよ」




 一人には何故、もっと別の道を選ばなかったのか、と。
 もう一人には何故、生きていてくれなかったのか、と。

 古い友人らを思い浮かべながら、私は一人散らばった書類に手を伸ばす。




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