とある神官の話
「…わかってますよ。私が危険なことくらい。でも私は、危険を目の前にして一人だけ突っ立っていることなんて出来ません」
―――どうして。
貴方が言っていること、言いたいことは全て正しい。私はただの神官。去年から様々な事件に巻き込まれたが、私自身の持つ技術などが上がった、だなんて。多少はあるかもしれないが、そんな簡単にいく筈がない。いつも私は助けられてばかりだ。何が"魔術師"の能力持ちだ。宝の持ち腐れじゃないか。
それに私は、危険視されていたような人物。
そんな人物が、闇堕者にでもなったらどうなる。危険だとわかっていて、私を普通に生活させてくれたことも、感謝している。でも―――。
どうして。
どうして貴方がそんな顔をするの?
私なんかより、辛い顔。すくなくとも私にはそう見えた。
「―――荷物、纏めてきます」
ゼノンが言いかけた言葉の続きは何だったのか。いや、わからないままでいい。
逃げるように私は部屋を出た。
無意識に足早になって、しかもまわりを見ていなかったらしい。見事に人にぶつかった「のわっ」
反射的に「ごめんなさい!」と顔を上げたら、青の瞳と視線か合う。それは見知った顔で驚いた私は、ずいぶん間抜けな顔を晒しただろう。
「な、なんでここにいるの」
そこにいたのは、友人でかつ腐れ縁といえるレオドーラ・エーヴァルトだった。
彼はバルニエルにいるはずなのに、何故彼までヴァン・フルーレにいるんだ?
彼は何か言おうとした口が、半開きで停止。
「何かあったのか?」
「えっ?」
「顔色が悪いぞ」
眉を潜めながら言うレオドーラに、私は曖昧に「平気」とだけ返した。ほかに何と返せというのか。この腐れ縁は、いつもそうだ。……変に気づく。
苦笑しながら「疲れただけよ」と私は返す。
そう。
疲れただけ。
「……成る程。そういうことか」
何が―――?
レオドーラの視線が私とは別のほうに向いたことに気がついた。私が僅かに振り返ろうとすると「ちょっと!」腕を掴まれ、そのまま歩きはじめた。そうなると私は引きずられていくしかない。
男のレオドーラと私では、歩幅が違う。彼は何処に行くつもりかと考えているうちに彼は止まった。
「話は全部聞いた」
レオドーラは既にヴァン・フルーレで起こったことを、あのアーレンスから聞いているらしかった。私が視線をそらすと、「お前なあ」とデコピンを喰らった。
痛む額をさすりながら、なにすんのよ!といった風に顔を上げた。