とある神官の話
「俺は知ってるぜ?―――シエナ・フィンデルはとんでもない女だってな」
意味がわからない。
レオドーラは私の腕をゆっくり離しながら、わざとらしく笑ってみせる。
「同学年の奴に喧嘩売られてがっつり買って相手を泣かせたり」
―――見習い時代の頃か。
嫌な思い出ばかりだ。
「隠れて予習復習練習やってたり、変なところでボケるし、何か若者つーか変に年寄りくさいし」
「な、なによ!レオドーラだって女顔で」
最後まで言えなかった。
ずっといわれっぱなしで、腹が立った。何なの。何なのよ馬鹿。罵ってやる前に、私の視界かぼやけた。薄い膜を張ったようなそれは、油断すると弾けてしまう。駄目だ。私。見られたくないから、お願いだから――――。
押し付けられた胸は、意外に広くて驚いた。
「我慢すんなよ馬鹿シエナ」
頭を強引に引き寄せられ、視界は見えなくなる。もう抵抗する気力も私にはなかった。それに、今の私はひどい顔だ。
押し付けられた衣服から、ここヴァン・フルーレの海の匂いではなく、森の、花のような匂いがした。
「お前はお前だ。ちゃんとみんなわかってる。だから、今だけでも――――全部出しちまえよ」
馬鹿じゃないのと私は言う。レオドーラはそれに「ああ馬鹿だよ」といい、そのまま、そう、少しだけ私に付き合ってくれた。
…まいっちゃうな、もう。
* * *