とある神官の話
―――私は馬鹿だ。
何を言ってるんだと思った。
今まで、今まで何をしてきた。何を見た。何を知った。
私は、"シエナ・フィンデル"が好きだ。何者でもなく、彼女が好きだ。だから今までずっと、彼女を守れるように動いたし傍にいた。彼女の過去は、簡単に扱えるものではない。胸が苦しくなるほどの、それ。
いつだったか私が、彼女に己の過去を話したことがある。父フォルネウスに拾われたという―――。上には上が、下には下がいる。どれが不幸かだなんて、その本人しかわからない。
教皇の判断などによっては彼女はもしかしたら、今生きていなかったかも知れない。
危険なら生きていたらいけないのか。
誰にも簡単に判断できない。
部屋を出ていった彼女を追いかけた。
だが、追いかけてどうする。いや、それでも追いかけた。わかっている。彼女はちゃんと。自分が彼女の立場であっても動いたはずだ。わかっている。彼女は悪くない――――。
追いかけた先で、思わず声をかけそびれた。
そこにはシエナの背中と、彼女と知り合いであるレオドーラ・エーヴァルトの姿が見えた。彼はこちらに気づいた。唇が何か動いたが、何といっていたかわからない。わかるのは、敵対心。
ああ、わかっている。彼はそう、私と同じなのだと。そして彼はすぐに、私と彼女に何かあったと読み取ったのだ。
あの目は、批難も含んでいた。
「……、お前何やってんの」
ゆっくり振り返る。何故か「っ!」と後ずさったのはランジットだった。
「か、壁に顔向けて突っ立ってるってお前…」
そういえば何人かが何か言っていた気がする。
聞けばそんな"光景"を見たヴァン・フルーレの神官がランジットにどうにかしてくれ(的なことを)と言ったらしい。