とある神官の話



「だから言ったのに。出来るだけ傍にいた方がいいって。今のヴァン・フルーレは平和じゃないんですから」

「お前が言うか、お前が」




 第二のハイネンとまで言われる奇人変人、エリオン・バーソロミューがヴァン・フルーレの神官らを平和を(困らせている)乱している気がするのだが。
 事件の後始末に神官らが動いている中、この後輩だけはいつも通りだった。




「秘密の話をしましょうか」




 にたりと笑ったエリオンに、私は頷く。お前も来いとランジットも引っ張り、一室を陣取る。
 エリオンは己の能力"守護者"の力で部屋に封じをし、続いて私が声などが漏れぬように術をかけた。念には念を入れる。
 そうして出来た部屋で「私の予想、当たりましたね」と言った。

 面倒だったが、ランジットにも――――私とエリオンの二人だけで話したことを説明する。アークの死因から、"シュエルリエナ"、そして"生きた管理者"のことを。

 黙り込んだランジットに変わり、エリオンが続けた。





「アークの血縁者がシエナ・フィンデルで、彼女にはアークが最期まで隠し通すことを望んだ"術式"が受け継がれて封じられている―――これから動きだしますよ、彼らは」




 だろうな。
 黒幕が"あの人"なら、アガレスもまた動く。大物が一気に動く可能性があるのだ。

 しかし、それがどうなるのかがわからない。
 味方とはっきりわかるのは限られる。ハイネンや、ロッシュ高位神官、フォンエルズ枢機卿……。それ以外はわからない。父は簡単には動けない。動ける者でどうにかするしかない。

 なら、どうする?
 どうしたらいい?


 焦っても何も始まらない。
 落ち着け。私だけが急いても意味がない。それに、味方だっている。
 私だけではない。




「術式の生きた管理者となった彼女は今、一番危険だ。しかし取り出せないと"あれ"は言っていたな」

「アーク自身が言うなら、そうなんでしょうね」




 私がシエナと合流したさいに見た、男。それは生きているヒトではない。亡霊、というべきか。
 "彼"は術式に魂の一部を封じたのだろう。そんなことが出来るのは、本当に優秀な証拠だ。

 あの男が―――アレクシス・ラーヴィア、だったらしい。若い男で、シエナと同じ黒髪だった。そして私に、シエナをよろしくと言った時の彼は、不安の入り混じった笑みだったのを思い出す。
 あれは多分、子供を思う親の顔にも見えた。もっとも年代を考えると親ではないのだろうが。
 彼はシエナに封じられている術式は、取り出せないといった。シエナが強く望まない限り。なら―――。




「シエナが取り出すようなことをしないとして、取り出させるように仕向けられる可能性もあるよな」

「……"彼"の処分がどうなるかわからないから、一端聖都から遠ざけたのか」

「だとしても、危険には変わりはないのですよ。それはロッシュ高位神官もわかっているはずです」




 貴方はどうするつもりなんです?
 そうエリオンに言われ、言葉に詰まる。

 彼女は昔、"危険因子"と判断されていた。下手したら牢獄、あるいは密かに―――。また同じようなことを考えられても可笑しくない。ただでさえ"外野"は煩い。
 私が答えるより先に「決まってる」とランジットがいう。


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