とある神官の話





 だが実際、ロマノフは何度か言い負かされている奴を見たことがあった。あながち嘘じゃないのでは、と思っている。






「いやあ、愛って素晴らしいですね」

「エルドレイスですか?ありゃ何というか、間違いまくってませんかね」

「いいんじゃないでしょうか」






 苦笑まじりな表情。上からのお呼びだしがあるのは目に見えた。だが―――止めなかった。好き勝手にさせた。

 おかげで呼び出しをくらい、ジャンネスもまた動くことになったのだが。


 事件の犯人も捕まえ、ほっとしたのも束の間になるだろう。





「貴方は、上にいかないんですね」





 秋が深まる窓の外を見ながら、ロマノフはそう漏らした。
 高位神官であり、経験豊富なジャンネスが何故。上にいかず辞める話もあった中、まだ留まってくれているのは何か理由かあるのか。


 ロマノフの言葉に、ジャンネスは笑った「そうですねえ」






「上は面倒ですから」





 そりゃそーだ。
 私はここで、と去っていくジャンネスの背中を見送る。

 本当の答えは聞けないまま。




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