とある神官の話



 その表情は、なんというか。
 心配しているのだろうが、それとまた少し違うような気もする、怒っている?いや、それもたぶん違う。それらが入り交じったように見えた。 




「聖都になんか行くなよ。お前はここにいろ」

「……私は」

「頼むから――――」




 守られてくれよ。

 そうレオドーラ言われた私。なんで。そんな必死になるの?腐れ縁…友達だから?私が"危険"だから?
 そんな言葉にどう返したらいいかわからない。
 ただ―――。
 私は、もう守られてばかりではいられないのだ。最初は父に、後はアーレンスたち。他にもいる。私を守ろうとしていた人たち。私は幼くて、何も無くて、弱くて。知らないことばかりだった。
 なら、今は?
 今はなんだ。神官になって、何があった。私は。

 ――――大丈夫ですよ。

 あの人の声が聞こえた気がした。
 何が、大丈夫なものか。
 守られてばかりなのは、嫌だ。





「っていっても、その顔だと行くんだろ?全く、お前ってやつは」


 

 
 ああもう、とレオドーラが頭をかきむしるような素振りとため息をつく。「危ないっていうことわかってるんだよな?」という彼の表情はさっきとは違って苦笑じみていた。お前っていうやつは、と。
 ちょっと、という前にレオドーラが頭を無理矢理撫でてくる。それはアーレンスが私にしてくるのと似ている。ちょっと乱暴だけど、優しさもある。

 いつからだろう。
 腐れ縁が、大人に見えるようになったのは。それが少し悔しいと思うようになったのは。
 頷いた私に、レオドーラは続ける。
 




「転移術を使う許可を貰って来てやった。準備したらロッシュ高位神官の所に行け。向こうではホーエンハイムが待ってる」

「さっきの時間でそこまで…?」

「おうよ。さっすが俺。まじ完璧じゃねーか」




 自画自賛をしながら「ほらさっさと行け」と背中を押す。
 こっちは俺に任せろ、と。
 ほら、と急かされるようにされたため焦りが前に出た。数歩先で私はとまる。ああ、もう何がなんだかわからないけど、その中でも変わらないでいるものだってある。

 振り替えると、レオドーラの女顔が疑問符を浮かべていた。




「レオドーラ」

「なんだ?忘れ物か?」

「――――ありがとう」




 驚いた顔がなんだかおもしろく見えたが、私はそのまま足を急がせた。

 何が、起きたというのだろう。



  * * *



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