とある神官の話





 久しぶりに訪れた宮殿は、雰囲気がかなり悪い。いや、雰囲気が悪いというよりも警戒感がある、というほうが良いのだろうか。
 転移術でやってきた先で、ランジットが待っていてくれた。
 




「ランジットさん!」

「久しぶりたな。元気だったか?」





 その質問を聞き返すと、ああと頷きが返ってくる。
 そのまま一室を出て、「話は聞いていると思うが」と歩き始める。





「ゼノンはまた目を覚まさない。今は宮殿の奥にいるんだ」





 実際に会った方が早いよな、と早々と話を切り上げる。足早なランジットが少し前を歩き、私がそれについていく。
 武装神官の姿も見えるのだから、私の緊張もぐっと高まる。
 今までこんなことはなかった。
 それはやはり、あの二十年くらい前のあの…アガレス・リッヒィンデルが起こした事件を彷彿とさせる。彼は素晴らしい神官だった。そんな彼が神官、枢機卿らを殺害したあの事件。私自身は文章や口でのみしか知らないが、当時を知る者ならばそれを思い出しているのではないか。

 当時は彼は闇堕者とされていたし、私もそう信じて疑わなかった。けれど…今は闇堕者ではないだろうと思っているし、むしろ闇堕者なのはあのリシュターではないのか。
 姿を消した、アンゼルム・リシュター。
 もう隠す必要がなくなったとでもいうのか。

 ――――なんだろ。
 今、かなり心細い。無性に誰かに傍に居てほしい。
 どのくらいの相手を、敵としているのかいまいち実感がわかない。力が抜けそうになる。意味もなく泣きたくなる。
 しっかりしろ、私。
 今はそんな場合じゃないのだから。

 ランジットは武装神官が立つ部屋へ入る。もちろん私も。
 何故武装神官が、という理由はすぐにわかった。
 教皇、エドゥアール二世がそこにいた。
 国のトップがいるのだから、厳重なのも頷ける。





「……まさか本当に来るとは」

「あの」

「ああいや、すまない。こちらの話だ―――それより少々めんどくせぇ…じゃなくて厄介なことになっててな、ごたついてるんだ」

「フォルネウス、素を出すなら出しなさいめんどくさい」

「ひでぇなお前は」





 ベッドには、銀色。ぱっとみた感じでは怪我はないようだ。
 ゼノン・エルドレイス…。
 部屋にはエドゥアール二世、もといゼノンの養父と、枢機卿衣のハイネンがいる。ハイネンの表情は目く固く見える。
 何があったかは聞いているものの、それからどうなったのかは知らない。





「それで、あの」

「調べてみたら、この馬鹿は術式をもろに食らったらしい。術式というよりはこう、呪いに近くてな、解除には時間がかかる見込みだ」





 誰に、といわなかった。
 ベッドに近寄って、顔を見る。相変わらずきれいな顔で腹が立つ

 エドゥアール二世と会話をした後、彼は再びランジットのもとに戻ろうとしたさいに、"誰か"に術式をかけられた。しかもその術式はご丁寧に複雑化されているという。
 解除には時間がかかり、かつ準備も必要だというが「それから」





「ジャナヤの件もある。これから会議が入っているから、またさらに時間がかかるだろう






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